内田クレペリン検査

年間70万人の受検者が利用する、
日本を代表する心理テスト

導入事例 5
 - 高所作業で、技術者の命を守るため

株式会社特殊高所技術 総務部長 青山太輔さん 株式会社特殊高所技術 総務部長 青山太輔さん
インタビューその5

高さ100メートルの高所作業で、技術者の命を守るため。

株式会社特殊高所技術 総務部長 青山太輔さん

特殊高所技術の事業内容、歴史、規模感など概要を教えてください。

2007年に京都市で創業した、インフラ構造物の調査会社です。「特殊高所技術」という特別な技術を用いて、橋梁やダム、水力発電施設や風力発電施設などの調査点検や非破壊検査、補修工事や維持管理などを行っています。高さ100メートル前後の高所で宙づりになって作業を行うため、「天空の仕事人」としてメディアに紹介されたこともあります。全国に5つの拠点があり、在籍人数は約70人。うち約50人が現場で働く特殊高所技術者です。

特殊高所技術とは?

高強度のロープやハーネスで体を固定して、インフラ構造物のメンテナンスを行う技術です。
日本のインフラは1960年代の高度成長期に一気に整備されたため、2010年以降、急速な老朽化が進んでいます。
2012年12月に山梨県で発生した中央道笹子トンネルの天井板落下事故は、記憶にも新しいでしょう。こうした痛ましい事故を防ぐのが、私たちの仕事です。

橋梁では、橋面上の交通規制を伴わずに点検可能 橋梁では、橋面上の交通規制を伴わずに点検可能

橋梁では、橋面上の交通規制を伴わずに点検可能

特殊高所技術を使用するメリットは?

例えば、レインボーブリッジや明石海峡大橋などの長大橋は、私たちの生活や経済活動にとって欠かせないものです。これらのインフラを数日間使用禁止にしてメンテナンスを実施するのは、現実的ではありませんよね。
特殊高所技術は、通常の点検のように足場を設置したり、重機を使用したりする必要がないので、効率的にメンテナンスができるんです。ちなみに、特殊高所技術が開発される以前は、双眼鏡で遠望目視点検をしていたんですよ。

ドローンなどは活用していないのですか?

ドローンを用いて調査・点検を行う方法もありますし、実際に活用の準備もしています。しかし、ドローンはあくまでも人の補助的な役割ですね。
私たち特殊高所技術は、人の介在価値を何よりも追求しているんです。例えばベテランの特殊高所技術者は、点検中にコンクリートの表面で蜘蛛の巣を見つけることがあるんですよ。遠目からはコンクリートのひび割れのように見えるのですが、実際に触ってみると蜘蛛の巣だったなんていうことはよくあります。一般的なドローンでは、こうした触覚情報を収集することはできません。とはいえ、ドローンの活用が効率化につながる側面もあるので、ドローンの特徴と人でしか成せない精度を融合させていく事が重要だと考えています。

技術者のストレスを見抜き、現場の事故を未然に防ぐ。

内田クレペリン検査を導入した理由を教えてください。

一番は、やはり現場の安全管理のためです。きっかけは、2017年と2019年に発生した墜落事故でした。幸いにも死亡者は出ませんでしたが、一歩間違えれば死亡事故につながっていたような、大きな事故でした。そこから自社の安全管理を徹底的に見直し、月に一度の安全研修を実施することになりました。
同時に、技術者の適性を可視化するため、「何らかの適性検査の導入が必要だ」と考えるようになりました。というのも、2回の事故はどちらも技術者の「手順の省略」が原因で発生したからです。
私たちの仕事では、作業ミス防止のために、ロープに3つ以上の「支点」を用意しています。支点とは、特別な機材や方法でロープを接続した箇所のこと。何らかの原因で1点目の支点が外れてしまっても、2点目、そして3点目の支点が有効に働くことで、ヒューマンエラーをカバーできるようにしているんです。
しかし、必要な手順を省略して作業を進めてしまうと、バックアップがいくつあっても意味がありません。どちらも「大丈夫だろうと思って、つい手順を省略してしまった」ということだったので、今後は「技術者にストレス耐性があるか」「負荷の高い環境下でも適切な行動を継続できるか」を可視化させる必要があると思いました。技術者の心理的負荷の強度や、人為的な事故を起こす可能性の有無を把握することで、事故を未然に防ぐ助けになると考えたからです。

いろいろな適性検査を検討されたのですか?

はい。内田クレペリン検査以外にも、いくつかの適性検査の導入を検討しました。ですが、他の適性検査は「質問に対して自由回答してもらう」という言語主体のものが多く、質問の答えが作為的になりやすいと感じました。
例えば、会社の採用面接で「あなたは、突然旅に出たいと思うことがありますか?」と質問されたとして、それに「はい」と答える人はなかなかいませんよね(笑)。内田クレペリン検査は数字主体の検査なので、こうした作為的な回答を省けるのが魅力でした。
他には、自衛隊や鉄道関係、行政でも採用されており、信頼度の高さを感じていました。

安全に作業を進める特殊高所技術者 安全に作業を進める特殊高所技術者

安全に作業を進める特殊高所技術者

それで内田クレペリン検査を選ばれたんですね。
検査は、どのタイミングで実施されているんですか?

まずは技術者全員に一斉検査を実施し、その後は年に1度の定期検査を行っています。
採用面接のスクリーニングでも使用しています。とはいえ、弊社の採用では「人柄」を最重要視しているので、検査結果が絶対というわけではありません。検査結果に気になる箇所があった場合は、配属先の上司やメンターに「この人にはこういう傾向があるので、注意してあげてね」と、一声掛けておく感じです。

定期検査のタイミングは決まっているんですか。

定期検査は、12月の安全研修で実施しています。なぜ12月かというと、そこが弊社の繁忙期だからです。
私たちの職種は、閑散期と繁忙期の差が非常に激しいんです。公共工事は年末や年度末に集中しているため、その時期だけは休みなく働いているイメージです。こうした「ミスが起こりやすい時期」にこそ技術者のメンタルをチェックするべきだと考え、定期検査を実施しています。


検査結果のどういった箇所に注目していますか。

最も注目しているのは、「以前の検査結果との違い」です。例えば、以前の検査では典型的な「定型曲線」だった人が、定期検査でいきなり「非定型曲線」になったら、「普段とは異なる精神状態だ」と分かりますよね。
また、検査中の行動にも注目しています。前回の定期検査では、受検中にいきなり立ちあがって背伸びをしたり、ジャケットの着脱を繰り返したりする人がいました。想像通り、彼の曲線は前回と大きく異なっていました。そこで個別の面談を行い、当時の心理状況についてヒアリングを実施したんです。すると、本人もストレスの蓄積を自覚しており、作業中の自身の行動に危険を感じていたことが判明しました。最終的には、現場ではなく内部の作業に一時的に従事してもらうことで、負担を減らすことができました。

内田クレペリン検査がなければ、技術者の不調を見抜けなかったと思いますか?

「当人からストレスを自己申告してもらう」という手もありますが、自分の状態を俯瞰的に捉えるのはなかなか難しいと思うんです。特に繁忙期の職場だと、「皆も頑張っているのだから、自分も頑張らなきゃ」と考えて、無理し続けてしまう人もいると思いますし。内田クレペリン検査で、技術者の状態を客観的に把握できたことは大きいと思います。

作業曲線とキャラクターが、ゆるやかに重なる瞬間がある。

青山さんは、内田クレペリン検査を読み解くために判定技術講座を受講していらっしゃいますよね。なぜ講座を受講されたのですか。

一番の理由は、私の「好奇心」です(笑)。私はどんな物事も、自分自身で理解して初めて腹落ちするタイプなので。内田クレペリン検査は、「この検査結果をどう判定するか」というメカニズムをオープンにしているので、学べば学ぶほど面白くなるんですよ。
もちろん、会社にとってのメリットもあります。弊社の採用では採否結果までのスピードを求められることがあるので、なるべく早く検査の結果を出したいんです。自社に判定員がいることで、スピーディ採用に検査を組み込めるようになりました。

ダムでは、ハンマーなどを使い変状を確認 ダムでは、ハンマーなどを使い変状を確認

ダムでは、ハンマーなどを使い変状を確認

内田クレペリン検査のどんなところが「面白い」と感じますか。

内田クレペリン検査の結果――特に作業曲線を眺めていると「生きている」と感じることがあります。例えば前回の定期検査で、「定型曲線」から「非定型曲線」に変わった人は、「この忙しい時期に、受検なんてしている場合ではないだろう」と考えていたそうです。その苛立ちが、突出という形で作業曲線に反映されていました。
最初、内田クレペリン検査の知識が浅い状態で作業曲線を眺めたときは、「無機質」な印象を抱きました。けれども学べば学ぶほど、その曲線が「有機的」に見えるようになったんです。相手の作業曲線とキャラクターがゆるやかに重なり、「この曲線は確かにこの人から生まれたんだ」と感じる瞬間、「面白い」と感じますね。

判定技術講座の受講を検討している方(企業様)にアドバイスはありますか。

私が判定技術講座を修了して感じたのは、「誰かの人生を背負う」という責任感でした。検査結果が採用の結果に影響するのはもちろん、検査結果を既存の技術者に伝えることで、相手の意識を変えてしまう可能性があるからです。
そのため、1人ではなく複数人で講座を受講するのも良いのではないでしょうか。判定員同士でフォローしあえる環境をつくることで、判定員のプレッシャーを軽減し、より正確な検査結果を導き出せると感じました。弊社でも今後、何人かの内勤者もしくは技術者に判定技術講座を受講してもらう予定です。

今後、内田クレペリン検査をどのように活用していきたいですか。

検査の結果を、受検者本人に還元していきたいです。今は、「検査結果が知りたい」と声を掛けてくれた人にだけ伝えているのですが、いずれは全員に還元できるようにしたいなと。
弊社では、内田クレペリン検査を導入してから、今年で3年が経過しました。社内にも、検査に興味を抱く人が増えてきたように感じます。
研修の担当者からは、「訓練中の新入社員の行動と検査結果の内容が一致している」という声をもらうこともありました。また、検査結果を課員の指導に活用しようと、アドバイスを求めてくれるメンバーも出てきました。今後は「検査をこう活用したい」と、技術者が自発的に提案できる雰囲気作りにも力を入れていきたいです。

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