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コミュニケーション・組織風土

2025/10/20

職場の人間関係を円滑にするコミュニケーション「アサーション」とは?

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職場の人間関係を円滑にするコミュニケーション「アサーション」とは?

目次

1. アサーションとは?
2. コミュニケーションの3つのタイプ
3. 日常的に繰り返されるコミュニケーションが組織風土をつくる

厚生労働省の調査では、働く人のストレス要因として常に「対人関係」が上位にランキングしています。みなさんも、上司や部下、同僚、取引先などと関わる中で、コミュニケーションの難しさを感じているかもしれません。組織の多様化が進む現代では、かつて当たり前だったコミュニケーションの「暗黙の前提」が通用しなくなり、対人関係の難しさは増すばかりです。そこで今回は、人事の方に向け、職場の対人関係向上に役立つ「アサーション」というコミュニケーション法をご紹介します。

1.アサーションとは?

アサーションは、1950年代のアメリカで、自己主張に課題を抱える人々のための心理療法(行動療法)として始まりました。その後、1960~70年代に差別撤廃運動が進む中で、アサーションは、人間の尊厳や平等の価値を広く捉える考え方として浸透し、人権課題に直面する人々が自身の声を届けるための有効な手段ともなりました。
アサーションは、自分の気持ち、考え、信念などを正直に、率直に、その場にふさわしい方法で表現する自己表現のあり方です。自分だけでなく、相手もまた同じように自己表現することを奨励します。権利という観点でとらえれば、双方の権利と自由を尊重するあり方とも言えます。
しっかりとコミュニケーションを取ろうとすれば、お互いの意見が対立することもあるものです。そのような時も、安易に自分の意見を譲ったり、相手に合意を強要したりするのではなく、互いの意見を率直に伝え合い、双方にとって納得のいく結論を出そうとする「歩み寄り」を目指します。
ちなみに、辞書を引くと、アサーション(assertion)は、「主張」「断言」と訳されます。日本にアサーションを紹介した平木典子先生は、書籍[三訂版]「アサーション・トレーニング」の中で、こうした訳語を用いることを避け、あえて「アサーション」とカタカナで表記したり、日本語にする場合は、<自己表現>という言葉を使うことにした、と語っています。このように、アサーションは一方的な「主張」ではありません。自分を大切に「話す」ことと、相手の話を大切に「聴く」ことの相互作用を含む<自他尊重の自己表現>と言えるのです。

2.コミュニケーションの3つのタイプ

アサーションでは、自己表現のタイプを大きく3つに分類して考えます。具体的には以下の3つです。

①ノンアサーティブ(非主張的)

言動の特徴自分よりも他者を優先し、自分を後回しにする。意見を率直に言えず、曖昧に伝えたり、言い訳がましくなったりしがち。
背景相手への思いやりが強い一方、自信の欠如や恐怖、不安、嫌われたくない、葛藤を避けたいという気持ちから、自己主張ができないケースも多い。
職場での言動とその影響ストレスや不満を抱え込み、精神的な不調や恨み、八つ当たりにつながることがある。また、本音が見えないことで周囲の誤解を招いたり、イライラを増長させてしまうこともある。長期的に見ると、問題の先送りとなり、良好な人間関係を築くのが難しくなる。

アグレッシブ(攻撃的)

言動の特徴他者よりも自分を優先し、相手のことを無視または軽視する。自分の意見を率直にはっきりと言うが、相手への配慮が不足し、他者否定的、操作的になりがち。
背景勝ち負け思考や「自分は正しい」という思いが強い。一方で、実は自信がなく、防衛のために強がっているケースもある。
職場での言動とその影響周囲から敬遠され、率直な意見をもらえなくなる。周囲のメンタルヘルス不調やハラスメント、組織の心理的安全性を阻害する要因につながることもある。短期的に強力なリーダーシップを発揮できることもあるが、独裁的になりやすく、結果として周囲から人が離れ、中長期的な信頼関係の構築を困難にする。

アサーティブ(自他尊重)

言動の特徴正直で率直な自己表現(話す・表現する)と、相手の表現や気持ちへの傾聴(理解する・受け止める)が、バランスよく行える。意見の相違があっても、互いが納得できる点を探し、歩み寄る。
背景適度な自信と謙虚さがあり、自分の感情の動きや思考をつかんでいる。相手と自分が「違う」ことを前提とし、自分のことを相手に伝えようとする姿勢と、相手を理解しようとする心構えがある。
職場での言動とその影響率直な意見や疑問を口にでき、建設的にやり取りできるため、後悔や気まずさが残りにくい。結果として中長期的に人間関係が安定しやすい。一時的に葛藤が生じたり、相互理解に時間がかかったりすることもあるが、多様な意見が取り入れられ、信頼関係や自己肯定感、心理的安全性の醸成につながる。

以上、コミュニケーションを3つのタイプに分類して説明しましたが、ある人が、常に特定のタイプであるというわけではありません。たとえば、普段は③アサーティブ(自他尊重)な言動が多い方でも、慣れない場や心理的安全性の低い環境では①ノンアサーティブ(非主張的)にふるまったり、多忙な時や疲れている時は②アグレッシブ(攻撃的)になったりすることもあるということです。このように、私たちのコミュニケーションスタイルは状況や相手との関係性によっても常に変化しており、どんな人でもこの3つのタイプを取ることがあるのです。

3.日常的に繰り返されるコミュニケーションが組織風土をつくる

ここまでは、個人のコミュニケーションを3つのタイプにあてはめて考えてきました。一方、職場単位でみると、どのようなタイプのコミュニケーションが多く行われているかが、職場の風土に影響を与えます。みなさんの職場は、以下のどれに近いでしょうか。こちらも、3つのタイプから考えてみます。

①ノンアサーティブなコミュニケーションが多い職場の特徴

この職場ではメンバーが自分の意見や懸念を率直に表明することをためらう傾向があります。これにより、建設的な議論が不足したり、問題が表面化しにくくなります。結果として、問題が放置され、コンプライアンスや生産性の低下につながりかねません。また、意見が尊重されない環境は、従業員の不満やストレスを蓄積させ、メンタルヘルスの不調や士気の低下を招きます。最終的には、優秀な人材の離職率を高める要因となったり、組織全体の成長を妨げたりする可能性があります。周囲からは唐突に見える退職願の提出や、近年注目されている退職代行サービスの利用などは、本人の事情だけでなく、自分の意見を率直に表明するのが難しい職場でより多く見られる傾向があるのではないでしょうか。

②アグレッシブなコミュニケーションが多い職場の特徴

この職場ではメンバーが自分の意見を一方的に主張し、他者の意見を軽視する傾向があります。これにより、対話が生まれにくく、高圧的なコミュニケーションが常態化します。結果として、萎縮したメンバーからは新たなアイデアや率直な意見が出にくく、イノベーションが阻害され、組織全体の停滞につながる可能性があります。健全な人間関係が築けずチーム内の協力体制が崩れると、事故や問題の兆候が見過ごされやすくなり、ハラスメントやコンプライアンス違反も発生しやすくなります。さらにこれらの事態が表面化すると、企業イメージの悪化や法的リスクにもつながる可能性があります。常に競争や攻撃にさらされる環境は、従業員のストレスを高め、燃え尽き症候群やメンタルヘルスの不調を引き起こしやすくなります。離職率の上昇や、有能な人材の流出にもつながるでしょう。

③アサーティブなコミュニケーションが多い職場の特徴

この職場ではメンバーが自分の意見や感情を率直に表明し、かつ他者の意見にも耳を傾けることができます。これにより、建設的な議論が活発に行われ、多様な視点から問題が検討されます。最初はやり取りに時間がかかるかもしれませんが、結果として潜在的な問題が早期に発見されて解決され、より効率的な業務プロセスや質の高い意思決定が実現されます。また、意見が尊重され、安心して発言できる環境は、従業員の心理的安全性を高め、エンゲージメントと士気を向上させます。これにより、創造性やイノベーションが促進され、組織全体の成長を後押しするでしょう。健全なコミュニケーションが根付いているため、ハラスメントやコンプライアンス上の問題も起こりにくく、万一発生したとしても迅速に対処されます。結果として、従業員は仕事への満足度が高く、離職率は低く保たれ、組織は安定的に発展していく可能性が高まります。

実際の組織内のコミュニケーションを観察してみると、一部のメンバーのアグレッシブな言動が、他のメンバーのノンアサーティブな言動を促すといった相互作用がみられることもあるでしょう。したがって、単純にタイプ分けできない複雑さがあるものですが、職場内にアサーティブなコミュニケーションが増えれば、個人にとっても組織にとっても健全で建設的なあり方に近づいていけると思いませんか?では、「どのようにアサーティブなコミュニケーションを目指せばよいのか」。これについては、また別のコラムでお伝えしていきたいと思います。

さて、日本で最初に実施されたアサーションのトレーニングは、1982年に開催された日本・精神技術研究所(日精研)のアサーション<自己表現>トレーニングであると言われており、私たちは、トレーニングのパイオニアです。以来40年以上にわたり、個人そして組織に向けたトレーニングを継続しています。アサーションに興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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アサーション〈自己表現〉トレーニング(※個人向け。企業研修としての1名~の利用も可能)
書籍[三訂版]「アサーション・トレーニング」:さわやかな<自己表現>のために

参考文献

1.厚生労働省 労働安全衛生調査(実態調査)
2.平木典子(2021)[三訂版] アサーション・トレーニング:さわやかな<自己表現>のために 日本・精神技術研究所/発売元 金子書房

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