目次
1. 休業から職場復帰への流れ
2. 約半数が再休職する現実。復職支援は慎重に。
3. 再発予防にも役立つ「リワークプログラム」
4. 休職者の現状が把握できる「適性検査」の実施
うつ病や適応障害など、心の健康問題は身近なものになってきています。一緒に働いている仲間が休業することも決して珍しいことではありません。実際、2024年7月に厚生労働省が発表した「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年でメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業者の割合は10.4%にのぼります。今回は、休職者の職場復帰をどのように支援するか悩まれている企業の人事担当者の方に向けて、お勧めの2つの方法をご紹介したいと思います。

1.休業から職場復帰への流れ
一般にメンタルヘルス不調による「休業」は、主治医が休業を要する状態だと判断し、診断書(病気休業診断書)が発行された翌日から開始されます。休業がはじまった初期は、体力や気力が落ちているだけでなく、従業員は今後の経済的な問題やキャリアについて不安に感じていたり、焦りや罪悪感、混乱などを抱えていたりするでしょう。自社の就業規則に基づき休業可能な期間を伝えたり、疾病手当金などの経済的な保障についても説明し、人事担当者は休職者の方が療養に専念できるように支援を行います。休業中も企業には安全配慮義務がありますので、およそ1か月に1回程度は(本人や家族に)連絡を入れながら病状の回復を目指すのが一般的です。
2.約半数が再休職する現実。復職支援は慎重に。
ところで、厚生労働省の再休職率に関する研究データによると、メンタルヘルス不調で復職した労働者のうち、5年以内の再休職率は47.1%にのぼります。つまり約半数が再休職してしまうというのが現実です。いったいなぜ、休業後の職場復帰がスムーズに進まないのでしょうか。このヒントになるのが、学会誌「産業精神保健」の「職場復帰支援プログラムに おける仕事力評価の試み」における種市康太郎教授(桜美林大学)の2つの指摘です。種市教授は、1点目として復職可否の判断において、「医療の側が復職可とするハードルが、職場側が可とするハードルよりも低い」ことを挙げています。これに関連した内容は、本コラムの4.でも触れたいと思います。そしてもう1点、「職場外に十分な支援プログラムを整備する施設が少ない」ことを挙げています。これら2つの指摘も踏まえながら、人事担当者がすぐにでも取り組める工夫を考えてみましょう。
3.再発予防にも役立つ「リワークプログラム」
復職の過程では、事業者側が仮に復職可と判断しても、休職者がすぐに職場復帰する訳ではないことをご存じでしょうか。事業者側は復職を最終決定する前に、まずは「職場復帰支援プラン」を作成することになります。ここでお勧めしたいのが、復職前に社外の職場復帰プログラム(リワークプログラム)への参加を計画に盛り込むという方法です。これは、先の2つ目の課題と関係します。
実際、リワークプログラムを受けた場合、受けなかった場合に比べて復職成功率が高くなるというデータがあります。日本うつ病リワーク協会の公表する調査結果によると「リワークプログラムを受けてから復職した場合、1年継続率は83.2%」というデータもありますので、積極的な利用を検討したいものです。
この社外のリワークプログラムですが、参加の方法は主に2つあります。一つが「医療機関(医療リワーク)」、もう一つが「地域障害者職業センター(職リハリワーク)」です(その他、福祉系のリワーク施設もあります)。「地域障害者職業センター(職リハリワーク)」は行政が運営するリワーク機関で各都道府県に約1か所あります。雇用保険が適用されるため、利用料が無料なのが魅力ですが、受入れできる人数に限りがあり、待機中の方も多いと言われています。
そんな時にお勧めしたいのが「医療機関(医療リワーク)」です。ご本人の負担となりますが、健康保険が適用できるため、一般的に負担は3割、あるいは自立支援医療制度を活用すれば自己負担を1割に抑えることもできます。医療系のリワーク施設を利用すると、主治医との連携も取りやすいことが特徴です。
自宅療養では、周囲とのコミュニケーションが限定的です。リワーク施設への参加により、参加者同士の交流ができるため、復職後の人間関係に自信をつけることもできるでしょう。施設ごとに“提供されるプログラム”や“提供時間”に特徴がありますので、これから医療系のリワーク施設を探される担当者の方は、一般社団法人日本うつ病リワーク協会のHPをのぞいてみてください。

4.休職者の現状が把握できる「適性検査」の実施
もう1つ、復職支援時にお勧めしたいことがあります。それは、復職判断時あるいは最終決定の際の、「適性検査」の活用です。先に取り上げた論文では、医療サイドと職場サイドで、復職可否を判断する際のハードルが異なることが指摘されていました。もし主治医の診断書で「復職可能」と診断されている場合で、事業者側が「まだ復職は早い」と判断するには、総合的でより客観的な基準が必要です。そこでご紹介したいのが、適性検査「内田クレペリン検査」の活用です。この検査は、すでに取り上げた医療系のリワーク施設の他、会社の産業医によっても、復職判断資料の1つとして利用されています。それは、当検査が作業遂行能力を測ることができる検査であるためです。
ご本人の職場復帰に対するモチベーションが十分であっても、業務を遂行する能力がそれに見合うだけの回復ができているかどうかは別の問題です。「内田クレペリン検査」では、負荷がかかった際の作業遂行の過程が(いわゆる心電図の波形ように)可視化できますので、産業医、産業保健スタッフのみでなく、従業員本人もまた、客観的に自分の状態を知ることに役立ちます。すべてのステークホルダーが、同じデータをみながら、納得感を持って職場復帰の可能性を探れることは、とても意味のあることだと言えるでしょう。
なお、「内田クレペリン検査」は、医療機関での利用においては保険適用がされる安心の検査です(D285 認知検査その他の心理検査)。身近に検査の結果を読み取る専門家がいない場合は、私たちが提供する復職支援者向けのサービス(アセスメント判定)も利用いただけます。アセスメント判定では、外部の医療機関と連携し、復職にあたっての業務負荷のかけ方などをアドバイスすることも可能です。職場復帰をスムーズに進めるための取り組みの一つとして、ぜひ活用を検討ください。
さて、今回は休職者の職場復職を支援する2つの方法をご紹介してきました。復職というのは、休業したご本人のみならず、現場の同僚や管理監督者にもかかる負担が大きいものです。再発予防の観点からも、しっかり従業員の職場復帰を後押ししていきたいですね。
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参考文献
1.厚生労働省 令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
2.厚生労働省 改訂心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
3.一般社団法人日本うつ病リワーク協会 HP
4.横山和仁ほか 労災疾病臨床研究事業費補助金
主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究 平成28年度 総括・分担研究報告書
5.五十嵐良雄・大木洋子・林俊秀 障害者対策総合研究事業(障害者政策総合研究事業(精神障害分野) 精神障害者の就労移行を促進するための研究 分担研究報告書「リワークプログラム利用者の復職後1年間の就労継続性に関する大規模調査」
6.種市康太郎 産業精神保健 18(1) 47-54 2010年 職場復帰支援プログラムにおける仕事力評価の試み
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