目次
1. 「作業量」と「作業曲線」で国の傾向を比較する
2. 平均作業量は「東高西低」?
3. 平均作業曲線のミステリー
4. 外国人へ検査を実施することのエビデンス
単純な一桁の足し算をひたすら続ける内田クレペリン検査ですが、質問を使う心理検査に比べて言語を翻訳するハードルが低いため、外国人に対して実施される機会が多くあります。最近では、「技能実習」や「特定技能」で働く外国人の方たちに実施される機会も増えています。そこで今回は、日本人と外国人の検査結果の違いについてご紹介したいと思います。
ただ、外国人といっても世界各地というわけにはいかず、比較的データの数が多いアジア圏の国が中心となることを最初にお断りしておきます。具体的には、東アジアから中国と韓国、東南アジアからベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン、ミャンマー、そして南アジアからインドのデータを取り上げてみたいと思います。
1.「作業量」と「作業曲線」で国の傾向を比較する
データを比較するにあたっては、内田クレペリン検査の結果のなかでもとくに大事な指標である「作業量」と「作業曲線」に注目してみたいと思います。「作業量」というのは足し算のできた量を指し、受検者の作業のスピードやテンポが反映されます。いっぽうで、「作業曲線」は一分ごとの足し算のできた到達点(改行した場所)を結んだときに表れる折れ線グラフのことを指します。こちらは受検者が自分の作業をどのようにコントロールしているか、という作業の質の側面が反映されるといえます。
今回は個人の検査結果の比較ではなく国ごとの傾向の比較ですから、通常の「作業量」や「作業曲線」ではなく集団単位の「平均作業量」と「平均作業曲線」というものを取り上げたいと思います。各国で集めたデータを平均化した「作業量」や「作業曲線(の形)」ということです。
2.平均作業量は「東高西低」?
それでは、さっそく国ごとの作業量の傾向を見てみましょう。【図1】に各国の平均作業量をグラフで示しました。一番左のえんじ色の棒が日本の平均作業量を示しています。日本の平均作業量は58.0です。これは一行あたり平均して58個の計算をしていることを意味します。一行の作業時間は一分(60秒)ですから、だいたい1秒に1個のペースで作業しているわけですね。

グラフ全体を俯瞰してみると、東アジアの三か国(日本、中国、韓国)は、ほとんど同じ水準であることがわかります。いっぽう東南アジア諸国とインドは、すこし平均作業量が少なくなっています。国によって違いはあるものの、だいたい東アジア諸国の70~80%くらいでしょうか。このように、作業量については「東高西低」の傾向があることがわかっています。
3.平均作業曲線のミステリー
次に、国別の作業曲線に注目してみます。【図2】に各国の平均作業曲線を示しました。平均作業量のところで示したように、各国で作業量の水準は異なるのですが、作業曲線の形だけを比較できるように、作業量の大小の影響を均して指数化した平均作業曲線を重ねて表示しています。

一見、9本の作業曲線が絡まるように重なってしまっていて「見にくいなあ」と感じた方が多いのではないでしょうか。それはつまり、各国の平均作業曲線がほとんど同じような形を示すということに他なりません。平均作業量は国によってはっきりと傾向に差が出るのに、作業曲線は似たような形にまとまってしまうというのは、ちょっとしたミステリーにも感じられます。
4.外国人へ検査を実施することのエビデンス
言葉や文化が異なる国であっても、内田クレペリン検査で測る「作業ぶり」「働きぶり」にこのような共通性が見られるということは、とても興味深いことです。内田クレペリン検査が測っているのは、人間の心理のなかでも社会的・文化的な条件によって形成される層よりも、もうすこし深いレベルなのかもしれません。平均作業曲線がどうして似たような形に収れんするのか、そのメカニズムを探ることには興味が尽きませんが、今回はこれ以上は踏み込みません。いずれにしても、これらのデータが内田クレペリン検査を外国人にも活用していくことに対する、エビデンスの一つとなっています。
ただし、今回のデータは各国の男女比や年齢構成、職業などを調整したデータではありません。同じ国のなかであっても、そういった要素によって検査結果の傾向が異なることがわかっています。ですから、作業量の「東高西低」といった傾向も、あくまで現時点のデータに基づく仮説であって、今後、データが増えていくにしたがって書き換えられていく可能性もあります。そのことには注意が必要です。
今回は、比較的データが充実しているアジア圏の外国人との比較でしたが、いずれ他の地域との比較もしてみたいものです。「中東編」「アフリカ篇」「ヨーロッパ編」「北アメリカ編」「南アメリカ編」など、この記事の続編が書けるよう、今後もいろいろな国のデータを集めていきたいと思います。この記事に関心を持っていただき、「自分の国の人材についてもデータを集めてみたい」という方がいらっしゃれば、ぜひご連絡ください。
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