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厚生労働省(以下、厚労省)の「外国人雇用状況」調査によると、日本で働く外国人労働者数は2,048,675人となり、届出が義務化された2007年以降、過去最多を更新しました(2023年10月末時点)。産業別にみると、最も多くを占めるのが製造業で、全外国人労働者の27.0%がここで働いています。労働力人口の減少に加え、長時間の立ち仕事や重量物を扱うイメージも強い職場とあり、日本人が応募をためらう一方、労働意欲があり若い人材が雇用できるという点で、企業が積極的に外国人労働者を採用しているようです。今回は、製造業における労災事故の現状を取り上げながら、事故の発生を抑える方法について考えてみたいと思います。
1.外国人労働者と労災事故

外国人労働者の増加に伴い、残念ながら外国人の労働災害も増加しています。厚労省の令和5年「外国人労働者の労働災害発生状況」調査によると、全業種をあわせた死傷者数は5,672名となっており、実態はもっと多いとも言われています。日本人を含む全ての労働者が労災害故にあう確率は1,000人あたり2.36人なのに対し、外国人労働者に限ると2.77人と多く、とりわけ特定技能(4.31人)や技能実習生(4.10人)は労働災害に遭遇するケースが多いようです。
また業種別に外国人労働者の死傷者の割合をみると、実に48.3%にあたる2,741人が、製造業であることが分かります。この数字を、先の製造業で働く外国人労働者の割合(27.0%)と比較すると、機械の操作(はさまれ・巻き込まれ)や滑りやすい現場での仕事(転倒)など、製造業はどうしても労災が起こりやすい環境にあると言えるのではないでしょうか。

2.事故を未然に防ぐ3つの方法
ひとたび事故が起こると、企業には怪我への対応や労災手続きが発生します。対応の仕方によっては、他の外国人従業員が不満を感じたり、モチベーションに影響を与えたりすることもあるでしょう。それでは、ヒヤリハットも含め、こうした事故を減らすために私たちは何ができるのでしょうか。
1つ目にあげられるのが、特に未熟練者に対する安全衛生教育です。日本人であっても、未熟練労働者の事故確率は高まるとのデータがあります。たとえば最近では、クラウドで多言語のマニュアルを手軽に作成できるツールもでてきているようです。また母国語に翻訳された外部の教材(一例:厚生労働省 未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル )も提供されていますので、安全に働いてもらうための作業手順やルールの理解に役立てたいものです。なお学習後の理解度のチェックについては、「分かりましたか?」と尋ねると「分かりました」と回答することも多いと言われています。「理解したことを説明してください」と確認することは、学習者の理解度が分かるため、より有効であると言われています。
2つ目が、言語の壁を低くする工夫です。コミュニケーションをとる際、日本人が日常に使用する「日本語」をそのまま使うのではなく、「やさしい日本語」に言い換えます。たとえば接続語の使用を減らし、一文を短くする。尊敬語や謙譲語ではなく、丁寧語を使う。そしてこれらを、ゆっくり、はっきりと話す。私たちが外国語を聞き取る際の苦労を思い起こし、話し言葉についても、こちらから歩み寄る姿勢を示したいですね。
3点目に、労働者の適性理解があります。私たちの持つ性格や気質は、時にそれが事故の起こしやすい行動を招く可能性があります。能力面もまた然りです。たとえば、もし事故を起こしやすい傾向を示す労働者が把握できるのであれば、より事故リスクの低い業務に配置する。同じ国や地域出身の信頼できる先輩とチームを組ませるなど、事故を未然に防ぐ工夫ができるのではないでしょうか。人手不足により多様な人材が集まってくる職場だからこそ、なおさら個々の特性を理解した上での適正配置が大事だと考えています。
3. 安心して働ける職場をつくる
人手不足による人材獲得は、日本のみならず韓国や台湾などの近隣国でも、またアメリカやオーストラリアなどでも大きな課題となっています。円安が進み給与面での魅力が薄れる今、私たちには日本で働くことに魅力を感じてくださる外国人の方々を増やす努力が求められています。製造業に限ったことではありませんが、事故の予防も含め、職場の働きやすさを改善することは、その企業で働きたい人材、ひいては日本で働きたいと考える人材を増やすことにもつながるのではないでしょうか。今、ここで一緒に働いてくださる外国人の安全を守りながら、安心して働ける製造現場をつくっていきたいものです。
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参考文献
1. 厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末現在)
2. 厚生労働省 令和5年 外国人労働者の労働災害発生状況
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