内田勇三郎の子育てのこと
あるNPO法人の機関紙に依頼されて「内田勇三郎の子育てのこと」というタイトルで、一文を寄せました。それを載せます。
日精研(日本・精神技術研究所)の創立者の心理学者内田勇三郎は、明治27年12月、東京の銀座に専売制度になる前の煙草屋(屋号は「内外煙草商」)の三男として生まれた。地元の泰明小学校、一中、六高(岡山)、東京帝国大学文学部心理学科(第一期)を卒業して、終生在野の心理学者として通した。大学卒業後数年して勤めた松沢病院で、独の精神医学者E・クレペリンの「連続加算法」による作業心理の実験的研究を追試する過程で、現在の内田クレペリン検査の着想を得て、爾後、内田クレペリン検査の研究と普及の仕事に携わった。昭和23年頃から、内田クレペリン検査の研究と普及のために日本・精神技術研究所を設立しその仕事に専念し、1966年11月に71才で亡くなった。
と、ここまで一気呵成に内田勇三郎の略歴のようなものを書いてみた。まあ普通の心理学者と言えるのではないかと思われる。
ところが、内田勇三郎は日本の心理学界では、奇人・変人として名を馳せていた。奇人・変人といっても横綱クラスというほどではなく、関脇程度ではあったが…。
まず、潔癖性(お金を消毒する…)、借金名人(教え子の学生までから金を借りる…)、食い道楽(行きつけの天麩羅屋に入り浸る、豚半頭を仕入れてそれを自分でさばいて毎日豚づくし…)、ニコチン中毒(一日にピース一缶と葉巻5本)、数々の作業障碍(原稿料を前借りして原稿を書かない、手紙の返事なども書かない…)等々、あげだしたら枚挙に暇がない。
で、子どもの教育についてである。子どもは三人作った。ぼくは、姉二人の末っ子の男の子である。(ぼくは、長ずるに及んで、人から「末っ子の男の子だったらさぞかわいがられたことでしょう」と何度も言われたがそんな形跡はほとんど何もない。父に手をつないでもらったこと、抱いてもらったこと、一緒に風呂に入ったこと、遊んでもらったことがほとんど記憶にない。)
内田勇三郎という人は、主義・思想としてかなり徹底した素質(気質)論者、生物主義者(人を1個の生物としてみる)であったから、子どもに余分な手を加えることをほとんどしなかった。程度の差はあれ、三人ともに対して「うっちゃらかし」(彼の言葉)であった。(母も、不承不承それにしたがっていたように思う。)
したがって、子どもたちに対して教育・躾の類のことをほとんど何もしなかった。(ただし、自らが潔癖性であったから、それに反することをしたときには叱られたが。)
大体が、子どものしたいことをなすがままにさせるという行き方であった。例えば、「早寝早起き」というのは子どもにとっていいこととされていたが、学校のある日はともかく、休みの日などは、子どものリズムを尊重して好きなだけ寝かせておくというのが彼の流儀であった。また、食事の時の行儀などについてもやかましいことは一切言わずに、子どもの好きな姿勢で食べれば良しとしていたし、箸の持ち方などについて躾けるなどと言うこともしなかった。ぼくは、この歳になっても箸の正しい持ち方が出来ずにいるほどである。
学校の成績などということについてもトンと無頓着で、通信簿など見せたことがあっただろうか。だから子どもをいい学校に入れるなどという発想も持たず、通うのに楽な近所の学校に入ればいいと思ってそれを実践した。ぼくが、学校の授業中の態度が悪いということで、教師が親を呼び出したことがあったが、その時内田勇三郎は出かけていって、その教師の話を聞いて、「その態度のどこが悪いのですか?」とのたまわったそうである。
その他、本を読め、勉強をしろなどということも本当に一切言われたことがなかった。だから、ぼくは高校の成績がどんどん下がって、結局二浪したあげくに慶応大学の文学部にようやく入ることが出来たのだが、そんなこともほとんど無頓着で、息子がどこの大学に入ったのかも、人伝に聞いて知ったほどであった。
ところでそういう父親に育てられてどうだったかということであるが、とにかく放任主義であったから楽であった。自分の好きなことをしていれば文句を言われることがなかったから、忍耐心とか集中力といったものが身に付かなかった。したがって、基礎的教養とか躾の面でもお恥ずかしい限りである。
でも気がつくと、ぼくも息子の教育を内田勇三郎風に行ってきたなあと思い至り、それで良かったかしらと思うことがある。



momoto 2010年03月08日 22:34:
何度聴いても、やっぱり変ですね。
孫の僕はもう少し常識的に育てられたと思いますけど。
それよりも、曾孫をどう育てるかに日々頭を悩ませています!
ムツ 2010年03月10日 16:47:
「迷留辺荘あれやこれや」を読んだことがあるのですが、仰天エピソードが盛りだくさんですよね。
豚の話が大好きです。
enmanpapa 2010年03月31日 11:23:
なかなか凄い方だったんですね(^^;
初耳でした。
義兄にも、そんな片鱗があるかなぁ・・・っと考えましたが、かなりの常識人に育て上げられていらっしゃると思いますよ!
ただ、そんな片鱗もあるかなぁ・・・(笑)