「ルインズ」(上・下)スコット・スミス

あの『シンプル・プラン』のスコット・スミス、13年ぶりの新作ということで、さっそく手に取ってみました。スティーヴン・キングが帯で「21世紀最高のホラー小説」と絶賛しているように、今回の作品は『シンプル・プラン』とは打って変わって、スーパーナチュラルでしっかりと味付けされた純粋なホラー小説に仕上がっていました。
バカンスでメキシコにやってきたアメリカ人の4人組(Wカップル)と、現地で知り合ったドイツ人とギリシア人。6人は、ひょんなことからジャングルのなかのマヤ文明の遺跡探検に出かけることになるのですが、そこで彼らを待ち受けていたのは。。。
以下すこしネタバレがありますので、これから読もうという方は注意していただきたいのですが、今回の物語はいわば「閉じ込め(ロックトイン)スリラー」の系譜に入るかと思います。ちなみに「ロックトイン・スリラー」って名前は、先日観た「潜水服は蝶の夢をみる」という映画からヒントを得て、たったいま僕が勝手に命名しました。
このジャンルの作品は、キングでいえば『第四解剖室(自分の肉体に閉じ込められた男の恐怖)』とか、『ジェラルドのゲーム(ベッドに手錠で監禁された女の恐怖)』とか、『ミザリー(ファンの家に閉じ込められた作家の恐怖)』とか、『クージョ(炎天下の自動車に閉じ込められた親子の恐怖)』とか、『レギュレイターズ(ストリートに閉じ込めれらる住人の恐怖)』といった一連の作品です。それぞれ、閉じ込められる層(肉体、ベッド、家、自動車、ストリート)は違いますけど、どれも行動の自由の制約が恐怖の源泉になるような構造があります。
この『ルインズ』も、若者6人が「ある理由」から遺跡に閉じ込められちゃうんですが、最初に外部から彼らを閉じ込める脅威に加えて、さらに内部から彼らを襲う脅威が設定されているんですね。まさに板挟み状態!こうなると、単なる「ロックトイン」を超えて「ダブルバインド・スリラー」とでも呼びたくなるような過酷な状況(この設定はエリックという登場人物の身体に反復して象徴化されているんですが)。
さらにもう一つ、この「ロックトイン」のほかに、この作品に繰り返し出現するテーマがあります。それは「無計画」に対する強迫的な恐怖です。これはとくに登場人物の一人が回想する伯父さんの台詞に象徴されているかと思います。
(以下引用)「『大切なことを教えてあげよう』と彼は言った。(中略)『うっかり考えもせずに選んだところへ行ってしまうことがある。無計画だとそういうことが起きて、予定していた人生を全うせずに終ることになる。おまえにふさわしいかもしれないが、それは意図した人生じゃない』(中略)『そうなったら必ず考えるんだ』と彼は言った。『必ず計画を立てること。いいね』」
この警句にも関わらず、主人公たちはどんどん「うっかり考えもせずに選んだところ」へ追い詰められていき、そのたびに立てた計画は失敗し、厳しい罰を受けることになります。
つまり、この物語では、「計画すること」がことごとく失敗し、つねに「無計画」によって(ジャングルの植物のように)「計画」が飲み込まれていってしまう恐怖が繰り返し描かれているのですが、実は、この強迫観念こそ、著者スコット・スミスがデビュー作の『シンプル・プラン』以来13年も次作を完成させられなかった理由に通じていたということが「訳者あとがき」で明かされるんですね。
そうであれば、この『ルインズ』という作品は、スコット・スミスが『シンプル・プラン』という自ら築いた遺跡に13年間も「閉じ込められ」、その間、あらゆる創作プランがことごとく失敗していった、その恐怖を描いたホラー小説なんじゃないかとすら思えてきます。



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