論文「執務・作業ブリノ科学的研究」について
内田勇三郎は1933年に、日本産業能率研究所というところから出ていた『産業能率』という雑誌に、「執務・作業ブリノ科学的研究~執務・作業状態ノ健康、不健康ノ診断ニ応用スル心理学的作業実験ノ概要」という長いタイトルの論文を発表しました。
ちなみに、日本産業能率研究所というところは、日本の産業能率研究のパイオニアといわれていた上野陽一氏(現 産業能率大学の創設者)が設立した研究所です。上野氏と内田は東京帝国大学での先輩後輩関係でした。
このタイトルから明らかなように、内田は、現在の内田クレペリン検査を「執務・作業ぶりの科学的研究」という風に規定していたようです。
この論文は、全部で6章立てになっています。
第Ⅰ章では、E.クレペリンの作業心理の実験的研究について触れ、人間の作業には「意志緊張」「興奮」「慣れ」「疲労」「練習」という5因子が働いているということが紹介されています。
第Ⅱ章「作業曲線の定型」では、クレペリン一派の研究と日本でこの研究の追実験を行った何人かの学者の「定型」についても言及しています。
第Ⅲ章の「作業実験の単位時間の吟味」では、内田はどういう時間条件で作業実験を行うと、クレペリンの言う5因子がよく現れるかさまざまな吟味を行ったことが報告されています。
第Ⅳ章「25分作業における作業実験」では、時間条件の吟味の結果、「(1分単位)15分作業・5分休憩・(一分単位)10分作業」という時間条件=25分作業に到達した内田が、さまざまな集団や個人に対し、この25分作業を実施した結果について述べています。「高等学校学生平均曲線」「小学教員平均曲線」「個人曲線」「精神発達に応ずる作業曲線」などを具体的に提示しながら、「健康者常態定型」という概念を提起しています。内田はまた、25分作業を実施するときに、被検者の作業中の呼吸の状態をあわせ見るために、Lehmannの方法に従って、呼吸線の描録実験を一部併用したりして、25分作業中の被検者の生理的状態を把握することを試みています。先駆的試みといってもいいでしょう
健康者の結果と併せて、さまざまな作業障害をもっている被検者の25分作業のデータも多く採っています。そして、それらの曲線(データ)が健康者の曲線(データ)と明確な違いがあることを指摘しています。以上のような対比から、この25分作業の結果が、執務・作業状態の健康、不健康の診断に応用することが出来るのではないかということを示唆しています。
第Ⅴ章「作業実験の産業への応用」では、いくつかの企業・組織で、実際に25分作業を応用的に用いてみた結果を報告しています。そして、この方法が、執務・作業状態の健康、不健康の診断に充分役立ち、その結果適材適所といった観点からも、従業員福祉に役立ちうることが示唆されています。
第6章「総括」の最後で、内田は、「産業上に応用したのはまだわずかの場合しかないが、いずれも役に立つことが認められる。」と結んでいます。
この論文が発表されたことがキッカケとなり、社会の各方面でこの方法が積極的に注目され、さまざまな分野で活用されるようになったと言われていますが、その意味で、画期的な意味を持った論文と言っていいでしょう。
なお、この論文は、「半角カタカナ漢字まじり文」というめずらしい表記法で書かれていますが、これは、当時、上野陽一氏が提唱していた表記法で、氏はしばらくの間この表記法を用いています。
この論文は、現在、『内田クレペリン精神検査のねらい』(1993年 株式会社 日本・精神技術研究所刊)に再録され、読むことが出来ます。



このエントリーのトラックバックURL
http://www.nsgk.co.jp/mt/mt-tb.cgi/129