勇三郎とメスカリン

今、国立近代美術館では、フランスの著名な写真家アンリ・カルティエ・ブレッソンの展覧会を開催しています。(07年8月12日まで。)6月30日にこの展覧会を見に行ったのですが、大盛況・大混雑でした。
見終わって、少々くたびれたので、椅子に座ってボンヤリしていたら、同じ美術館の2階で「アンリ・ミショー展 ひとのかたち」というのをやっていたので、少し休んでから、挑戦してみました。
アンリ・ミショーというのはフランスの詩人ということぐらいしか知らなかったのですが、絵も描いた人だったようで、興味を持って会場に入りました。基本的には小振りな抽象画なのですが、独特な手法の作品で、ユーモアも感じ取れ、私好みのものでした。
しばらく見進めると、「メスカリン素描」と銘打った10枚ぐらいのシリーズの絵が現れました。思わず「?!」という気持になりました。実は、勇三郎と「メスカリン」には、深い関係があったからです。 

「メスカリン」とは、メキシコに生息するペヨーテとよばれる仙人掌(さぼてん)から採れる成分で、幻覚作用を持った一種の麻薬です。メキシコの原住民が宗教儀式の際に用いたことで知られています。1919年には、化学的に合成されるようになったようです。(オウム真理教は、1990年年代にメスカリンを化学的に合成し、信者のマインドコントロールに使ったとされています。)
勇三郎は、昭和8年(1933年)に何人かの共同研究者と一緒にこのメスカリンを使った実験を行い、自ら硫酸メスカリンを0.275グラム注射し、中毒時の精神変化をプロトコル=観察記載書として残しています。当時、勇三郎は、「実験的意志障碍」(実験的に意志障碍または作業障碍を起こさせる)という方法に関心を持ち、その一環として、この実験も行ったようです。
そして、中毒時に精神作業(内田クレペリン検査)・記銘検査・聯想検査・残像検査・直感像検査などの心理学的検査を行い、そのプロトコルを残したのです。
プロトコルによると、勇三郎は、メスカリン注射後2時間ぐらい経ったところで、クレペリンの連続加算実験(内田クレペリン検査)を行います。その際のプロトコルの記述。「数字の残像が残り、かつ数字の周囲がチラチラしてくる。一分毎の区切りが非常に長く感じ、実験されながら“まだ一分経たないか?”と再三質問する。間に挟まる5分の休憩も非常に長く恐らく一時間位に感じた。(注意が動揺しているように見える。室外を通る物売りの声など頻りに気になる。)」と書かれている。
このプロトコルは、かなり長いものなので、ほんの一部しか紹介できないのが残念です。

勇三郎は、この「実験的意志障碍」ということで、さまざまなことを実験しました。不眠、炎天下行進、飲酒、喫煙、禁煙などの負荷を被験者に加え、そういった状況下で内田クレペリン検査を実施し、どういう変化が検査結果に現れるかを見ようとしたのです。
勇三郎は、内田クレペリン検査がいかなる意味を持った検査なのかを探求しようと、実験臨床心理学とでも言える姿勢で、基礎的な研究を行ったのでした。

日時: 2007年07月09日 16:14   カテゴリ: ユウザブログ   投稿者: uchida-j