「生物と無生物のあいだ」福岡伸一著

何しろタイトルが「生物と無生物のあいだ」。その上オビにタイトルより大きく踊るコピーが、「読み始めたら止まらない 極上の科学ミステリー 生命とは何か?」と来る上に、書評では著者の文章の素晴らしさが必ず絶賛されています。いやでも期待は膨らみました。きっとこれまでに無い知見が得られ、目からウロコが落ち、頭の中を爽快な風が吹きぬけるといった本なんだろうな、と。しかも新書なので、章ごとに気の利いた薀蓄として覚えておきたくなるエピソードが程よくちりばめてあるんだろうな、と。
しかしまあ当然私の安直な期待は裏切られたわけです。確かに随所に挿入される過去を回想した文章は、実にリリカルで素晴らしいのですが、「この上なく地道で、息詰まるほど緻密で、果てしなく続くと思われた研鑽の日々の果てに、ついに研究者がたどり着いた驚愕の真実!」なんてものを、800円ばかりで読めると期待した私が虫が良すぎました。
ここで語られているのは、必ず報われるとは限らないがそれでも熱を失わない日々、どうにもならないことが確実にあることを知ってしまったことによる静かな諦観、その諦観ゆえの強さ、自らの命そして全ての生命に対する謙虚なまなざしではなかったでしょうか。
えーどうも抽象的で思わせぶりなことばかり書いてしまい気恥ずかしいのですが、例えば、結論ちゅうのは必ずあるもんだ!とか、もっと言ってしまえば、成功とはしなきゃならないもので、できなければそれはとても悲しいことなのだ!などという世間にあふれるうっとうしい物言いを実は否定しきれない居心地の悪さに対する、何らかの答えとなるような気もしているわけです。
追記
エピローグでは、著者の少年時代のエピソードが語られます。そこにアオスジアゲハという、都会で見られる蝶の中では、筆頭といってよいくらいに美しい蝶の話が出てきます(ただ著者はその蝶を語る上で“美しい”という表現を一言も使わない!)。その飛び方のあまりの自在さゆえ、これまで一度も捕まえることができず、その羽を間近で仔細に眺めることはかなわなかったのですが、著者がしたようにクスノキの下で目を凝らしサナギを探せばよいのです。この夏の楽しみがまたひとつ増えました。



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